離婚についての総論-後編
前回、挙げさせて頂いた「離婚する前に考えておくべき11の事項」について、具体的にどのようなことを検討しておかねばならないのでしょうか、ざっと見ていきたいと思います。
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すぐに離婚すべきか、いったん別居すべきか
いきなり大層な問題ですが、そこは難しく考えないでください。
協議離婚は、相手が応じてくれる限り、離婚届の自署部分へ署名して(さらに言えば自署部分を代書してもらうことも可能ですが。)、必要部分を補充の上、役所へ提出すれば、いつでも容易にできてしまいます。そうだとしますと、余程の事情がない限り、すぐに離婚すべきではなく、いったん別居して、離婚後の生活について冷静に考える機会を設けるべきと言えます。離婚後の生活を具体的に検討しないまま、言い換えれば金銭の問題を解決しないまま離婚の成立を先行させてしまうとこんなはずではなかったということになりかねません。離婚後も養育費や財産分与の請求はできますが(財産分与は離婚後2年間に限られます(民法768条2項)。)、夫(又は妻)といったん他人になると、まずもって容易には払ってくれません。しつこいようですが、離婚に関連する金銭問題の交渉を有利に進めるためにも、離婚の成立というカードは大事にとっておいてください。なお、こちらの意に反して相手が離婚届を出してしまう恐れがある場合には、事前に「離婚届不受理届」を役所へ提出し、意に反する協議離婚を防いでください。 -
別居する場合に生活費(婚姻費用)をどうするか
では、当面、別居することとして、夫婦で同居していた家から出ていくのかは自分か相手かを考えなければなりません。持ち家か否か、持ち家だとすると誰の名義になっているのかを考慮の上、最終的に自分が出て行くとなると賃貸を借りることになるでしょう。その際の初期費用(仲介手数料を含む)と引越費用で、余裕をみて月額賃料の5ヶ月分程度はみておくべきでしょうか。いずれにしても、別居中といえども、夫婦には相互に扶助義務がありますので、婚姻生活を維持するための費用(以下、「婚姻費用」といいます。)を相互に分担することになります。通常は、収入の多い夫から収入の少ない妻に金銭を支払うことで行われます。適切な婚姻費用がいくらかは双方の収入や別居に至る事情等を総合考慮して決せられます。具体的な婚姻費用の目安は裁判所の下記ホームページの養育費・婚姻費用算定表より御確認ください。
相手が適切な婚姻費用を任意に支払わない場合、調停を起こし、調停で合意に至らなければ審判という形で裁判所により婚姻費用額を決定してもらうこととなります。裁判所が審判を出してくれればもう安心かというと決してそうではありません。ここからさらに、相手の財産を調査して、強制執行が奏功して初めて婚姻費用の回収が実現される、ということとなります。
・・・・婚姻費用の回収をするだけでも相当な手間と時間がかかりそうな雰囲気ですよね。そんなことをやっている間にも、毎月の生活費の支払いは待ってはくれません。そんな切実な要望に応えるため、平成25年1月1日より施行された家事事件手続法では調停申立時に審判前の仮処分の申立てを認めら(家事事件手続法105条1項、157条1項2号)、婚姻費用の仮払いが迅速かつ簡易に実現されるようになっています。 -
離婚する場合で財産分与の対象となる財産はあるか、あるとしてその分け方をどうするか
互いの懐事情についてオープンな夫婦であれば財産分与の対象となる財産の有無は比較的判断しやすいと思いますので、ここではオープンではない夫婦を念頭に考えてみます。まず、財産分与の対象となる財産が何かということですが、夫婦双方が婚姻中に協力して得た財産を指します(民法768条3項)。夫婦の一方が婚姻前から有する財産と婚姻中自己の名で得た財産(特有財産)と呼びますが(民法762条1項)、この特有財産は財産分与の対象となりません。そして、相手が管理している財産に関する情報をどのように得るのか、ということですが、1番簡単なのは郵便物です。不動産については固定資産税の請求書、有価証券や預貯金については証券会社や銀行からの取引履歴等の通知が届いているはずです。将来の不測の事態に備えてそれらの情報を少しずつ収集しておくべきでしょう。そして、夫婦共有財産の原則的な分け方は2分の1とされています(いわゆる2分の1ルールと呼ばれます。)。一方で、財産分与を考える際に忘れてはならないのは夫婦が婚姻生活の中で負担した住宅ローン等の債務も財産分与の対象となるということです。具体的には夫婦共有財産の場合と同様に夫婦が債務を2分の1ずつ負担し合うことになります。
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慰謝料請求するか、するとして請求金額をいくらとすべきか
先生、慰謝料はいくら請求できますか、弁護士をしていて離婚の相談を受けていると最もよくされる質問のうちの一つです。
日本の裁判所が離婚訴訟に伴い慰謝料請求を認容する場合の慰謝料額は100万円~300万円の範囲に収まるケースがほとんどです。裁判所が最終的に認定してくれる額がその程度であるということを念頭に置けば、請求すべき金額も自ずから決まってくるというものです。あまりに高額な慰謝料を請求することは、裁判所からの印象は余りよろしくない、と個人的には考えています。そして、慰謝料請求を誰にするかということですが、分かり易いところで、浮気が原因で離婚する場面では、夫(又は妻)とその浮気相手の両方、又はどちらか片方だけを相手にすることも可能です。ただ、支払い能力の点から両者を相手とすべきでしょう。なお、慰謝料請求権は3年間で時効消滅(民法724条)してしまいますので注意しましょう。 -
子がいる場合に親権者や養育費をどうするのか
お子さんがいらっしゃる場合、親権者を夫婦どちらにすべきでしょうか。お子さんの幸福を第一に夫婦の話し合いを尽くして親権者を決定してください。親権者について争いとなった場合、日本の裁判所では、夫が働き、妻が家庭を守るという旧態依然の典型的なケースでは、原則として親権者は母と指定されるのが通常です。親権者を父と指定する場合は、母が子に虐待をしていた等の特別の事情が必要であると認識しておきましょう。養育費は、夫婦の収入を基準として、その他の事情を総合考慮して決せられます。期間は、近年では大学卒業までとされるのが一般的です。仮に、養育費が月額5万円でも12ヶ月で60万円となり、それが10年だと600万円ということになります。これを一括で請求することもできますが、支払能力の問題から通常は月額分割払いとなります。具体的な養育費の目安は先程も紹介しましたが裁判所の下記ホームページの養育費・婚姻費用算定表より御確認ください。
→ 東京家庭裁判所:養育費・婚姻費用算定表 -
離婚後の子と親権者でない親との面会交流をどうするか
親権者でない親から他方に対し、子との面会交流が求めることができます。これは法的な権利であると考えられています。この実現のためには、面会交流の日時、場所、面会方法、頻度、立会人の有無、面会にかかる費用の負担者などを取り決める必要があります。これについても合意に至らない場合には、調停・審判を経る必要があります。なお、面会を認める審判が出た場合でも、嫌がる子を無理矢理連れて親権者でない親との面会をさせるという直接的な強制執行は許されず、面会の履行命令に従わなかった親権者に対し金銭の支払いを命ずるという間接的な強制執行しか許容されていません。そうすると、いったん親権者となった親が強引に子との面会をさせないということも可能になりそうですが、先日、福岡家庭裁判所において、面会拒否を理由として親権者を変更する、という非常に珍しい審判が出ましたので、興味のある方は御確認ください。
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離婚後の姓をどうするのか
婚姻により姓を変えた夫又は妻は、離婚により、以前の姓に戻ります(民法767条1項)。ここ夫婦別姓を導入するかどうかが長年に渡り、議論されているところですが、未だその見通しは立っていない状況です。そのため、我々は現行法を前提として動かざるを得ません。姓が元に戻ることにより、キャッシュカード、クレジットカード、年金、健康保険、その他生命保険を始め、あらゆる社会生活において姓の変更手続きをしなければなりません。これは、姓の変更手続きを強いる者に対し、アイデンティティを喪失させるに足りる一大事です。そこで、民法は影響を最小限に抑えるために離婚日から3ヶ月以内に届け出ることにより、離婚の際の姓を称することができることしています(民法767条2項)。
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相手方の支払能力の有無
離婚に関連して、相手方から婚姻費用や慰謝料の支払いや財産分与をしてもらうことになったものの、既に相手方の財産が散逸してしまって支払能力がないなんてことはなんとしても避けなければなりません。日頃から、相手方が使用している金融機関(できれば支店名まで)、就業先、交友関係に関する情報を確保し、いざ強制執行をしなければならなくなった時に迅速に手続きに着手できるよう備えておくべきです。
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年金分割の割合について
年金分割とは、夫婦の一方のみが働き、厚生年金保険等の被用者年金の被保険者等となっている夫婦が離婚した場合、婚姻中働いていなかった妻(又は夫)が働いていた夫(又は妻)の標準報酬等の分割を受けることができるとする制度です。通常は、分割割合は原則として2分の1です。これは財産分与の場合と同様と覚えておいてください。年金分割ができるかどうかは、年金事務所へ情報提供通知書を請求することで確認できます。年金分割の具体的な方法については日本年金機構の下記ホームページを御確認ください。
なお、年金分割を請求できる期間は離婚から2年以内ですのでご注意ください。 -
別居ないし離婚後の仕事について
別居後ないし離婚後に就職活動をされると、年齢、職歴にもよりますが、就職口が予想外に狭いことを実感されるかと思います。その意味でも、婚姻中から手に職を付けておくことが理想的と言えます。
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弁護士に相談する時期について
夫婦の将来について少しでも不安を持たれている場合には、一刻も早く、弁護士へ相談されることをお勧めいたします。近年インターネットの普及により、一般的なアドバイスは巷に溢れかえっています。しかし、夫婦関係は千差万別であって、一般的なアドバイスがそのまま使えるケースは皆無と言って過言ではありません。
労を厭われず、できるだけ早く、弁護士へ直接ご相談されることをお勧めいたします。すぐに弁護士に相談したい、そんな方は黄櫨(ハゼノキ)綜合法律事務所まで下記フォームにてお問い合わせ下さい。